保健室の眠り姫は体育教師の受難を夢に見る
「……」
なんか嫌な会話だな、と思いながら、窓の外、すぐ下から立ち上る2本の紫煙を見ていた。
「絶対生徒に見られたら駄目なやつだな」
「久詞はまだいいでしょ。わたし保健の先生よ? タバコ吸う先生に健康に気を付けてとか言われても は? って思うよねー」
「それはまぁ、確かに」
保健室の窓のすぐ下で、壁にもたれかかって座りながらタバコを吸う2人のダメな大人たち。
私が絶対的に信頼している大人たち。
「糸島ちゃんとは和解したの?」
「……いや、まだ思い出さないみたい。惜しいとこまでいったと思うんだけど」
「なかなか苦労しますなぁ」
「本当デスヨ」
そんな2人して、本当に私が何か忘れてるみたいに。やめてほしい。
「でも今回のことは元はと言えば久詞が悪いよね」
「……聴いてたのか? むしろ見てたのか……?」
「神聖な私の保健室ですよ?」
「……」
これ以上は聴かないほうがいい、と思うのに、息を殺して耳をそばだててる。
「必死に思い出させようとしてて、滑稽だなぁって。だってさ、」
だめだよみちるちゃん。
「忘れるように暗示をかけたのは、久詞じゃない」