保健室の眠り姫は体育教師の受難を夢に見る
* * *
保健室には秘密がある。
『保健室のベッドで眠るとさ。自分が知らないうちに記憶が抜け落ちるらしいよ』
そうなんだ。
そんな学校の七不思議みたいなこと、高校生にもなって信じる人いるんだね。
『意外とみんな好きなんだってそういうの。お前だって、嫌いじゃないだろ?』
……あぁ、うんまぁ、そうかも。
『だからさ、小唄』
なぁに?
『目、閉じて』
…………どうして?
* * *
少し肌寒いくらいの、秋の匂いがする風が吹き抜けた。それは優しく保健室のカーテンを揺らす。
二本の紫煙はまだゆらゆら。
「忘れるように仕向けたのは久詞なのに、なにやってんの? 一貫性ないの全然らしくないよ」
「らしくないかな」
「うん。付き合いの長い私が言うんだから間違いないね!」
市野先生とみちる先生は大学の同級生だった。
そのことを知っている人は少ない。
「……一貫性ないな、たしかに。ぶれぶれだ……」
悪い王様の情けない声がして、やっぱりここにいちゃいけないな、と思う。
でも足が動かない。