保健室の眠り姫は体育教師の受難を夢に見る
もうだめかもしれない。
そんな予感で満たされる。
前に保健室で目を覚ましたとき、真っ赤な舌を見たときから、本当は少しずつ予感していた。
じっと目を閉じて、まだ続く2人の会話を聴く。
私が眠っているものとして続く会話には嘘がない。
「まぁ、あんなきれいに忘れちゃうとは思わなかったよねー久詞も。どう考えても記憶が抜けちゃうとか迷信だし」
「あれから迫るたびに本気で気持ちわるがられるんだけど……」
「あ、ついに隠す気なくなったな!迫るとか……!お巡りさんこっちです……!」
「うるさいな」
「しかも忘れていいよって自分が言ったくせに思い出せとか自己中すぎるよね?」
「みちる。耳が痛いからやめて」
「ははっ」
魔女は愉快そうに笑った。
力関係は王様より魔女のほうが上のようで。
二本の紫煙は空に消えてなくなる。
「でも……うーん。なんだかなぁ……」
なによ。
「なんだよ」
「や、何というか……。もう勝手にやっとくれーってかんじよ」
「……」
「たぶん、久詞はね。嫉妬したんだと思うな。自分以外を選んだ糸島ちゃんに」
…………。
「…………かっこわる」
「ほんとだよ」
「そろそろ目覚めてもらわないとな」
市野先生がタバコを消す気配がして、私は慌ててベッドに潜り込んだ。