保健室の眠り姫は体育教師の受難を夢に見る
眠り姫の記憶の在処
眠っていれば、たいていのことはやりすごせる。
今までもそうして、ズルをしてきた。
よく倒れるのは演技なんじゃないかって囁かれても仕方が無い。演技で打撲つくったりするのなんかご免だ、って言いたいけど、言わない。だって演技じゃないけど私は卒倒する体質を利用し倒している。
見たくないものも聴きたくないことも、
目が覚める頃にはすべて過ぎていた。
『…………手放せんのかなぁ俺』
そんな誰かの苦難も、知ったことではないと眠り続けた。
ただ眠ってやり過ごすかわりに、誰かはよく私にキスをした。
たまに触れるようなキスを。
ある日は頬に子どもがするようなキスを。
かと思えば、すべて飲み込んでしまうような口を開く深いキスをした。
だけど何度のキスでも目覚めない。
私の眠りは深いのだ。
夏が次第に秋へと色を変え始めると、中間テストが始まって早く帰宅するようになった。
低血圧もましになり、卒倒の心配もない生活。
市野先生ともみちるちゃんとも顔を合わさない平和な学校生活。
諦めてくれたのかな、とぼんやり思った日に、王様は動いた。