保健室の眠り姫は体育教師の受難を夢に見る


『3年A組、糸島さん。3年A組、糸島さん。市野先生がお呼びですので、至急、体育準備室まで行ってください。繰り返します――――』



終礼が終わって帰り支度をしているとき、教室のスピーカーからそんな放送が鳴ったものだから唖然とした。


なに考えてんの! と本人に言いたい。


なぜ! 呼び出し放送を使うのか!
みちるちゃんもだけど私用で放送部の人を使うのはやめてほしい

それからなんで体育準備室指定……

あらぬ噂をたてられるからやめてほしい。今だってクラスの女子がひそひそと「準備室だってー!」と黄色い声をあげているし、ちょうど今クラスの前を通った泉谷くんは「やっぱりか!」みたいな顔してこっちを見てるし、もう。



ばかばかしい。

行くわけないのに。




鞄にノートと筆記用具を詰め込んで、黄色い声も泉谷くんも無視してさっと教室を出て行く。準備室とは逆方向の下駄箱までさっと歩き出した。



先生は呼び出して、今度はどうするつもりなんだろう。

下駄箱からローファーを取り出しながら考えていた。



けど、考える必要がなくなった。




玄関には市野先生が立っていた。




「放送聴こえなかったのか糸島。体育準備室だ」




たくさんの生徒が帰っていく玄関で、悪い王様は爽やかな王子の仮面をかぶってそう言った。




「……じゃあなんでここにいるんですか」




通り過ぎる女子生徒が〝いっちーばいばい!〟と言った。

おう気を付けて帰れよーってよそ見をする先生に、




今しゃべってるのは私でしょ、




って不覚にも思った。








「俺と来て糸島」






再び裁判、開廷です。
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