保健室の眠り姫は体育教師の受難を夢に見る



体育準備室までの道を、帰宅する生徒たちの流れに逆行して先生の後ろをついていく。

先ほどの体育準備室呼び出し放送はまぁまぁインパクトがあったようで、冗談まじりの冷やかしの目にさらされた。



〝いっちー変なことすんなよ!〟と知らない男子生徒がすれ違いざまに言ったので、私は心の中で〝もっと真剣に! 言ってやって!〟と念じる。



「……先生」

「ん?」

「私何か、呼び出されるようなことしたんでしょうか」



前を歩く背中に問いかける。
市野先生は振り返らない。



「あぁ。お前は保健体育のテストの結果が悪かったからな。補講だ」

「テスト昨日じゃないですか! なんで昨日の今日で補講ですか……」

「忘れないうちにだよ」

「……忘れないうちに」




それはまた、意味を含んだようなこといいますね。




「ちょっとそこの自販機寄ってくわ」

「はい」




そう言って先生は体育準備室への道から少しそれて、グラウンドに面した自販機へ向かった。

自販機の前で市野先生は少しも迷わずに、ブラックの缶コーヒーと紙パックのいちごミルクを買った。



「ん」



手渡されたブラックの缶コーヒーを受けとりながら、思ったままのことを言ってやる。



「またそんなかわいいもの飲んで……」

「ウケ狙いです。〝いっちーいちごミルク飲んでる!かわいい〜〟ってなるから女子人気はこの一本でいける」

「あざとい……」



本当に好きなだけのくせに、とまでは指摘せずに階段をのぼる先生の後ろをついていく。
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