保健室の眠り姫は体育教師の受難を夢に見る
テストの回答用紙を奪いとってから、しまった、と思って咳払いをして冷静になろうと自分を落ちつける。
先生のペースに流されたらいけない。
「……呼び捨て、嫌です。先生他の子のこと下の名前で呼ばないでしょ」
「うん。前にお前に怒られてるからな」
「……」
「ちゃんと気を付けてるよ」
えらいでしょ? とおどけて言うからまた腹が立って、言いたいことをぐっと飲み込む。
飲み込んで、違う言葉を選んだ。
長机の先に向かって声を飛ばす。
「先生は、何がしたいんですか?」
先生は肩肘で頬杖をついて私を見た。
態度でかい。
いや、先生だからいいんだけど。それでも。
「ずっと言ってるじゃん。思いださせたいんだ」
「どうして?」
「どうしてって、」
「先生が忘れるようにしたのに?」
かぶせ気味にそう言うと先生の動きは固まった。
長机の端と端で繰り広げられる、これはもう喧嘩だ。
「…………思い出したのか?」
「思い出してませんしそもそも信じてません。でも、先生とみちる先生が話してるのが聴こえました。忘れるようにしたのは先生なんでしょう?」