保健室の眠り姫は体育教師の受難を夢に見る
「薬はありませんけど……よかったら」
右のスカートのポケットからハンカチを取り出して渡した。
彼は薬と一緒にティッシュもずっと探していたみたいだけど見つからないみたいだった。
「え、いいのこれ」
頷く。
「鼻水でどろどろになるよ?」
「なんでわざわざそんなこと……良いって言いにくくなるので黙って使ってください」
「はは」
面白そうに笑って彼はハンカチを受け取った。
鼻も目も真っ赤なのに、笑った顔はなんだかすごく格好いい気がした。
「それでは」
もう私にできることはないな。
ふらふらとベッドに直行して、カーテンのしきりを引いて上履きを脱ぎベッドに潜り込む。
シーツの冷たさが気持ちいい。同時に、私が幸せに暮らせる場所はベッドの中しかないのか……と絶望的な気分になる。今日は大事な、最初の一日だったのに。
目を閉じても意識が落ちず、余計なことがぐるぐると頭をまわって私を苦しめる。そんな時にシャッとカーテンが開く。さっきの彼が顔を覗かせた。
「……なに……?」
今度は若干の恐怖を覚えた。
「いや、新入生って言うから。入学式はどうしたんだろうと思って。体調悪いの?」
「だからって普通勝手に開けないでしょう!」
「あぁ、ごめん」
なんかちょっとずれた人だなぁと思いながら、開けられた仕切りにドギマギした。
それで一体この人は、誰。
「あなた、ここの生徒じゃないですよね……? 誰……?」
「あぁ、うん。久詞って呼んで」
「ひさし……?」
「俺の名前」
「そんなこと訊いてないしなんで下の名前!」
本当にずれた人だった。