保健室の眠り姫は体育教師の受難を夢に見る
「……名前はわかりました。そうじゃなくて、訊いているのは身分です」
「うーん……」
なぜか言い渋るものだから不信感が募る。
布団を目下までかぶって、寝転んだままじっと彼を睨んだ。
「言えないような身分なら大声で不審者って叫びます」
「こら、やめなさい。さすがに初日からは困る」
「初日? ……高校生じゃないですよね?」
「十代に見える?」
「嬉しそうですけどぜんぜん見えないですよ」
「あ、そう」
「…………もしかして新任の先生ですか?」
「あっさり当てられてしまった」
そう言われてみればそんな歳かもしれない。
高校生には見えない外見で、でも明らかに大人というかんじはしなくて。
自分よりも、少しだけ上なのかな? と思ったけど、二十代前半か。
ちょっとくだけすぎてしまった言葉にバツが悪くなっていると、彼は言った。
「先生とは、呼ばないでほしいなー……」
「……なんで?」
「慣れてないっていうか。先生になったんだけど、先生って呼ばれるの落ち着かなくて。入学式は息が詰まったわ」
鼻も詰まってるけどね、と特に面白くもないことを言われてスルーして、会話を続ける。
「でも慣れていかなきゃ、仕方ない」
「まったくその通りだな。それでなんできみはベッドで寝てるんだ?」
「……低血圧なもので」
あぁ立ちくらみね、と言って彼は近くに椅子を引き寄せて座る。
「待って。待ってください。私はこの通り休もうとしています……!」
「きみは何ていうの? 名前」
「話を聴いて!」
「名前」
「……糸島」
「糸島、何?」
「糸島、小唄です」
小唄ね、と笑った。
だからなんで下の名前なの。
彼は私の顔の横で頬でをついてこちらを眺めていた。