保健室の眠り姫は体育教師の受難を夢に見る
「教室、戻らないんですか……?」
「うん、あとちょっとだけ」
鼻がましになったら、と言って彼はわざとらしく私がさっき貸したハンカチを自分の口元にあてた。
「はぁ……」
「ん? 何のため息?」
「私たちだめだなーと思って。だってこんな、初日から」
「ほんとだな」
「……私が言うのもなんですが」
「ん?」
「がんばってください」
「……」
「あなたは大丈夫です。たぶん生徒にも好かれるし、ちゃんと先生になっていける」
「……ほー。そのお墨付きは、嬉しいな」
「だから今すぐ教室に戻、」
「小唄」
「…………なに」
彼が名前を呼ぶたびに、胸の中がざわざわした。
それに連動するかのように風でカーテンが揺れて、今のこのワンシーンがより深く私の中に刻まれていく。
入学式の今日にあったはずの、友達をつくろうと声をかけるドキドキとかあの部活の先輩格好いいとか、そんなことは一つもないけど、飛びぬけて記憶に残りそうな保健室のこと。