保健室の眠り姫は体育教師の受難を夢に見る



先生の車の助手席に座るとちょっと複雑な気持ちになった。

前に送ってもらったときは、完璧に自分は生徒だという気持ちで乗っていた。でも今は?



「小唄。他の先生出てこないか校舎のほう見てて」



そう言って駐車場から出るために後ろを確認しながら一度バックする。すぐ横にある顔に、付き合っていた頃は慣れてドキドキもしなかった。でも、今は?




恋人じゃなかった半年間を経て、今更またドキドキしてる。




「……なんか緊張してる?」

「!」



不意に耳元で囁かれて飛び上がりそうになった。



「してない……!」

「そう? 俺はなんかちょっと緊張するんだけどな」

「……どうして?」

「……どうしてだろ? 半年で大人っぽくなったか? だいぶ髪伸びたよな」



さらっと指先が髪を通り抜けていく。

こんな風に、私が保健室で眠っているときも彼はよく、髪を触っていた。
今それがとてもむず痒く感じる。



「なんかこういうの、少女漫画で読んだ……」

「少女漫画?」

「意外とあるの。先生と生徒の恋愛モノ」

「へぇ、貸してよ。読んでみたい」

「ダメ。直視できないと思う」



あれは現実には起らないであろう一種のファンタジーであるからときめくのであって、現実に先生と恋愛している身からすれば、どこかを漂って消えてしまいたいような、何とも言えない気持ちになってしまう。








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