Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
もともと洋服をたくさん持っているわけでもなく、本の類も大学では必要のないものばかりなので、東京に持っていく荷物の量はたかが知れている。
しかし、東京とは別方向に心のベクトルの向いている遼太郎は、取り掛かりがすっかり遅くなり、母親にせっつかれてようやく荷造りを始めたところだった。
みのりから個別指導を受けていた時にもらった、日本史の用語集が目についた。それを手にした遼太郎は、迷いなく東京へ送る荷物の中に入れる。
今は何でもネットで調べられるし、きっと使うことなどないだろう。けれども、これは遼太郎にとって、お守りのようなものだった。
他にも、添削指導を受けていた時の問題プリント類。びっしりと書き込まれた解説は、みのりの手によるものだ。もう必要のないものだけど、どうしても捨てられずに今まで取っておいた。
癖のない端正なみのりの文字を見つめているだけで、遼太郎の胸がキュンと鳴く。遼太郎は唇を噛んでその感情を味わいながら、それらをクリアファイルに入れて、やはり東京へ持っていく荷物の中に入れた。
本の類の整理が終わり、風呂へ入ろうとしたところ、みのりからメールが届いているのに気が付く。