Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
先ほど着たばかりの部屋着を脱いで、濡れた浴室に入り、シャワーの蛇口をひねる。勢いよく出始めた心地よいお湯の下に体を置いた時、正面の鏡に映る自分の姿が目に入ってきた。
胸元に一片の花びらが落ちているような赤い印――。
それが遼太郎に付けられたものだと判るまでに、時間はかからなかった。
遼太郎の唇の感覚が、みのりの肌の上に甦ってくる。力強い抱擁と深いキスは、遼太郎がみのりの全てを、心の底から求めていた証だ。
その遼太郎の手を、みのりは自ら振りほどき、拒んだ。
そして、遼太郎を傷つけて、突き放した……。
春の優しい夕陽に照らされた柔らかな風景の中、遼太郎の背中が小さくなっていく。
もう二度と見ることはないと、心に決めているその姿を思い出して……、みのりの心の堰が切れた。
今まで、懸命に堪えてきていた涙が溢れだしてくる。体の中から心を取り去ってしまいたくなるほど、心が激しい痛みに耐えかねて悲鳴を上げている。
「うぅ――……」
喉の奥から自然と嗚咽が湧きだして、みのりはお湯に濡れる体を震わせた。