Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
眺望とは言えないその視界には、マンションや一軒屋の屋並みと遠く高層のビルが並んでいる。辛うじて近くに高い建物はなかったが、その空は狭かった。
ここでこれから4年間、遼太郎は暮らさなければならない。
新しい世界に一歩踏み出し、目の前は明るく拓けているというのに、遼太郎の心はピクリとも動かなかった。目に映るもののすべてが、薄暗いフィルターをかけられたようにどんよりとしている。
感性を司る心は、みのりに別れを告げられて家路を自転車で辿る間に、カラカラに干からびて凍り付いてしまっていた。感じる心を生かしておいたら、体の芯に巣くう哀しみに気が付いて、自分で自分を制御できなくなる。
ここまでやって来るのでさえ、何も自分では判断ができず、木偶人形のように母親の言いなりになって動くだけだった。
近くのコンビニで買ってきた簡単な昼食を済ませてしばらくすると、注文しておいた家電製品や芳野から送った荷物が、矢継ぎ早に到着した。
姉と母親は、それらを荷ほどきし、手際よく整理し始める。
このころになって、姉の真奈美が遼太郎の様子が普通ではないことに気が付いた。
「…お母さん…。遼太郎、ちょっと変じゃない?久しぶりだから気のせいかな…って思ったけど、そうじゃないよね?」