Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



「そうなのよ。昨日帰ってきてから、あんな感じ。もしかして彼女にフラれたりしたのかしら。」

「……ええっ?!彼女?遼太郎にぃ?!それ、ホント?信じられないんだけど。」

「それがね。いるらしいの。あっ!フラれたんなら、『いた』らしいのよね。」


 重い腕を動かして、荷物の整理をしていた遼太郎は、母と娘のヒソヒソ話を耳にして立ち上がり、その背後に歩み寄った。


「フラれたんじゃ、ねーし!!」


 眉間に皺を寄せて、ひとこと言い放つ。


「えっ?えっ?!フラれたんじゃないって、どういうこと?って、やっぱり彼女がいたの?どんな子?下級生?」


と、真奈美から追いを打って質問攻めにされたが、遼太郎は答える気はなかった。その彼女が、真奈美も知っているみのりだったとは、到底言えない。


――…それに、あれはフラれたとは言わない……。


 辛い記憶が甦ってきて、遼太郎は唇を噛みしめた。

 フラれる…。その言葉に当てはまるような、気持ちが冷めたり嫌いになったから…なんて、そんな単純なものではない。

 いっそのこと、そんな単純なことだったら、どんなにいいかと思う。それだったら、数年後に再会して冷めた気持ちに再び火が付き、よりが戻ることもあるかもしれない。
 けれども、「好きだから別れる」決断をした場合、…それは不可能だ。


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