Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
疼く傷を抱えて、それにひたすら耐えるように、遼太郎は黙々と荷物の整理を始めた。
「遼太郎……。」
そんな弟の背中に、姉はそれ以上かける言葉も見つからず、無神経に詮索することも、不用意に励ますこともできなかった。
荷物の整理が一通り終わり、親子3人は近くにレストランを見つけて、そこで夕食を共にした。
街を歩いてみても、遼太郎には東京に来ているという実感がまるで湧かない。こんなふうに街の一部を切り取って見てみると、地方の街の中を歩いている感覚とあまり違わなかった。
ただ、違うのは人の多さ。どの往来も人が行き交っている。そして、東京はこの街が延々と広がっていて、そこには同じようにたくさんの人がいる…。その中には、二俣もいるだろうし、姉もいる。他にも知っている人間もいて、会おうと思えばいつでも会える。
しかし、こんなにもいろんな人間がいるのに、遼太郎はただ一人取り残されるような孤独を感じた。
確かに、みのりの言う通り、これから大学で様々な人間に出会えるだろう。けれども、こんな枯れた心では誰とも心は通わせられない。
みのりから遮断されてしまうということは、遼太郎にとって生きる力の源を断たれてしまうようなものだ。
みのりのいない場所――、みのりから隔絶された世界は、遼太郎にとって誰もいない砂漠のような場所だった。