Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



 喜美代は感情が高まってしまったのだろう。言葉の最後の方は目に涙を浮かべて声を震わせていた。


 この一、二年、喜美代と顔を合わせるたびにこの話題になり、少なからず険悪な雰囲気になってしまう。そうなってしまうのが解っていながら、この日のみのりは自分を制御できなかった。

 この話題を持ち出す日頃の母親への鬱憤(うっぷん)と、遼太郎を失ってしまった不安と彼への行き場のない募る想いを持て余して……、それらが自分の中でぐちゃぐちゃに相まって、みのりに冷静な言動をさせなかった。


 少し頭を冷やそうと、みのりは喜美代のいる庫裏の居間を出て、本堂の方へ向かう。
 その途中、客殿の縁側から裏に設えられている庭が見渡せる。手入れの行き届いている日本庭園には、つつじの花が今が盛りと咲き誇り、庭から続く裏山には、初々しい若葉が一斉に萌え出でて、爽やかな風が吹き渡っていた。


 みのりは足を止めて、縁側に座りこんだ。
 庭でも観て、心を落ち着けようと思ったが、自分でも説明が出来ないいろんな感情が湧きだしてきて、庭の美しいつつじも端正に整えられた枯山水も、みのりの目には映らなかった。


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