Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



 訊かれたくないことを詮索され始めたので、二俣は不機嫌そうに腰かけていたベンチから立ち上がった。


「のど渇いたから、何か買ってくる…。」


 二俣はそう言って遼太郎を一瞥すると、きまり悪そうに目を逸らしてロビーの端にある自販機までゆっくり歩いて行った。
 その後ろ姿を見守りながら、遼太郎は思った。


――あれは、キスもしてないな…。


 二俣はもともと嘘のつけない性分だ。特に遼太郎に対しては、遼太郎が二俣に対するよりも誠実で、こんなときは可哀想なほどに正直になる。


 中学生の時から3年以上も彼氏と彼女の関係を続けていて、キスもしていないことなんてあるのだろうか。色気とは無縁の清純そのものを絵に描いたような沙希を相手に、二俣もその気はあってもなかなか行動に移せなかったのかもしれない。

 いずれにしても告白するときに、キスをするという強行手段に出てしまった遼太郎にとって、それは俄かに信じられないことであった。


 あの菜の花畑でのキスを思い出しただけで、その感覚に圧倒されて、一時の間心身のコントロールが図れなくなる。そして、押し寄せる想いの波に心が洗われて、みのりのことが心の底から好きなんだと再認識する。
 ほんの短い間、唇が触れ合うだけだが、愛しい人に触れられることは、それほど遼太郎にとって素晴らしいことだった。


 
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