Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
9 ライブの夜
薄暗いその空間に足を踏み入れるとき、遼太郎の心臓は緊張のあまりドキドキと鼓動を打った。
「ドリンク、ワンオーダー制となっております。」
バーにいたお姉さんからそう言われて、遼太郎はあたふたと財布を取り出して、アルコール…ではなくコーラを注文した。そのコーラを片手に、遼太郎がきょろきょろと辺りを見回していると、樫原の声が後ろから響く。
「狩野くん。こっちこっち!遅かったね。もうすぐ始まっちゃうよ。」
樫原はテーブル席の一つを占有して、きちんと遼太郎の分の席も確保してくれていた。
「いや…、下北沢に来るのって初めてだったから、駅からここまで、ちょっと…どころか、かなり迷ってしまって。」
下北沢どころか、遼太郎にとってライブハウスに来ること自体、初めての体験だ。
「確かに、ここってちょっと分かりにくいかもね。どこかで落ち合って、一緒に来ればよかったね。」
ニッコリ笑う樫原の表情は、相変わらず屈託がなく、まるで少女のようだ。
出会った当初は、この樫原の女の子っぽい仕草にいちいちゾワゾワしていた遼太郎だったが、最近ではずいぶん慣れ、普通の会話が出来るようになってきた。