Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



 フロア全体は非日常の熱気を帯びて、バンドの延いては佐山から醸されるオーラが支配した。


 遼太郎は、初めて間近で見るライブの勢いに圧倒された。ステージ際で熱狂するファンたちと佐山の姿は、ラグビーの試合で一つのボールを追いかけて体をぶつけ合い、真剣勝負をしていた自分たちの姿と重なった。

 こんなにも打ち込めるもののある佐山が羨ましいと、遼太郎は思う。自分は、高校生活の全てを捧げたラグビーからも遠ざかってしまった。


――何か見つけたい……。


 自分の全てを注ぎ込めるほどに、熱中できることを。
 そうは思うが、みのりと別れたショックから自分を取り戻すのに、2か月は要してしまった。その後も大学での毎日は無為に過ぎていき、まだ自分は空っぽのままだった。


 ライブは聴衆を熱狂の渦に巻き込んだまま、アンコールも終わり、終演となった。


「晋ちゃん。終わったら、一緒にご飯食べようって言ってたよね?」


 樫原が遼太郎に確認する。


 もう8時を過ぎているが、そう言えば夕食を食べていないことに、遼太郎は気が付いた。本来ならば空腹で死にそうになるはずなのに、それを感じないとは、それほど佐山のステージの衝撃が強かったみたいだ。


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