Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



 遼太郎の視線の先には、みんなから少し離れて、女の子の一人とバンドのメンバーの一人が話をしていた。よく見ると、先ほど佐山が『可愛い』と言っていた〝茂森彩恵〟という女の子だ。
 これから二人で抜け駆けして、どこかに行こうと内緒話でもしているのだろうか。

 ……しかし、何やらそんな雰囲気ではないらしい。
 彩恵は必死で首を横に振り、身をすくめて後ずさりしている。それでも、バンドのメンバーは、彩恵の腕を掴んでしつこく誘いをかけている。

 他のみんなは、夏休みに遊びに行く計画に夢中になっていて、彩恵が困っている状況に気づいていない。


 見るに見かねて、遼太郎は一歩踏み出した。


「いいじゃない。カラオケ、行こうよ。可愛い歌声、聞きたいな。」

「いえいえ、もう帰らないといけないんで…。」


 近づくと、そんな会話が聞こえてくる。


「ここまで断ってるんだから、勘弁してあげてください。」


 側まで行って、静かだけれど有無を言わさない口調で、遼太郎はそう言った。
 その声色に気圧されて、バンドのメンバーは思わず彩恵の腕を離す。けれども、それで引き下がるわけにはいかなかったみたいだ。


「なんだよ、お前。関係ないだろ!」


と、もう一度彩恵の腕を掴もうと、身を乗り出した。
 彩恵が身をすくめるのと同時に、遼太郎がその前に立ちはだかった。


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