Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
「どうするんですか?無理やり連れて行くつもりですか?」
毅然とした遼太郎の態度に、バンドのメンバーもひるんだ。
その頃になって仲間たちも、ただならぬ様子を感じ取って遼太郎たちの周りに集まってくる。分の悪くなったメンバーは、「チッ!」と舌打ちを一つしてギターを担ぎ直すと、みんなに背を向けて夜の街に消えていった。
「あいつは……また。女癖悪いんだ。」
眼鏡の真ん中を押し上げながら、佐山が顔をしかめた。そんなことだろうと、遼太郎も眉を動かして息を抜き、駅の方へ向かって歩きはじめる。
「彩恵ちゃん、大丈夫だった?」
他の女の子たちも、心配そうに彩恵に声をかけてきた。
「うん、大丈夫。ちょっとビックリしただけだから。」
「そう、狩野くんが気付いてくれてよかったね。」
「うん……。」
そんな会話もそこそこに、彩恵は遼太郎へと駆け寄り、そっと腕の後ろに触れた。
その感触に、思わず遼太郎が振り返る。
「あの……、ありがとう。」
彩恵は遼太郎を見上げて、恥ずかしそうにお礼を言った。
それに対して遼太郎は、ただ少し口元を緩めて、ほのかに笑って応えた。
その微笑は、ただそれだけの些細なものだったけれども、一人の少女を恋に落とすのに十分すぎる力を持っていた。