Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
10 会いたい気持ち、辛い決意
見上げた校舎は、陽射しのあまりの強さと熱気に揺らいで見えた。
8月の今の時期は、夏休みの補習もなく、生徒の姿も部活生以外はほとんど見かけない。騒がしい生徒たちの代わりに、けたたましい蝉の声が辺りを取り巻いていた。
毎日通っていた学校なのに、知らない人の家に足を踏み入れるような感覚だ。
遼太郎は校舎に向かうことなく、校門の前の道を渡った第2グラウンドから、職員室の窓を見つめた。
――…あそこに、先生がいるかもしれない……。
そう思うだけで、体が震えてくる。
毎日想わない日はないほど、遼太郎の一部になっている人。思い描くその姿は、いつも微笑んで遼太郎を見守ってくれている。芯は強いけれども、とても可憐で、思いがけないところでドンくさい、愛しくてたまらない人だ。
心はいつも「先生に会いたい!」と叫び続けている。なのに、遼太郎はもう何日も、部活の手伝いで学校へ来ていても、みのりに会いに行かなかった。
会いに行っても、きっとみのりを困らせる。いつも懸命に働いているみのりの邪魔をしたくない。
……それよりも、あの春の日の別れを思い出すたび、恐怖で体がすくんでしまう。やっとの思いで立ち直った自分の心の均衡が、またみのりに突き放されて再び崩れてしまうのが怖かった。