Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
こんな些細なことにもみのりの心は過敏に反応し、動揺する。折り返しの電話など出来るはずもなく、平常心でいられる自分を取り戻すのに、かなりの時間を要してしまう。
ましてや、遼太郎を意識してしまったら…。
それを自覚しているみのりは、無意識に遼太郎を記憶の底に押し込めた。まるで、その部分の自分の人生さえも、ないものにしてしまうかのように。遼太郎と彼に関わる全てのことに、目を閉ざして見ないようにしていた。
そんなふうに、精神の均衡を保っていたみのりにとって、なおさら夏休みは心休まる期間ではない。
休みになり帰省している卒業生たちが、たまに学校へと姿を見せる。その度に、みのりの心臓は跳ね上がり、遼太郎ではないことを確認して、胸をホッと落ち着ける。
あんなに傷つけておいて、わざわざ遼太郎が自分に会いに来るはずがない……。
大学でたくさんの友達が出来て、彼女なんかも出来て、もう自分のことなどどうでもいい存在になっている……。
それが普通の人間の感覚だ……。
みのりはそう自分に言い聞かせて、遼太郎のことを〝過去の思い出〟にしようと必死だった。