Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
「…わかった。2枚ともあげるわよ。彼女とでも行きたいの?」
詮索するような目つきで覗き込まれて、思わず遼太郎は赤面した。
この反応は、無言の同意だった。そのことにも意外だった母親は、目を丸くして遼太郎を見つめた。
「…と、とにかく、もらっとく。ありがとう。」
遼太郎は母親の問いには答えず、素早くチケットを財布の中へと滑り込ませた。
母親から「彼女とでも」と言われて、遼太郎は自分にとってみのりの存在の意味を、改めて考えた。
――先生のことは、「彼女」って、言うんだろうか…。
自分はこの上なくみのりのことが好きで、何にも増して深く想っている。自分のこの想いと同じくらいかどうかは判らないが、みのりも自分のことが好きだと言ってくれた。お互いの気持ちが通じ合っている場合、普通は恋人同士となり、彼氏と彼女の関係になるはずだ。
現に、もうすでに自分はみのりとデートに行き、そこでキスも交わした。自分のことを「遼ちゃん」と呼ぶ、みのりの深い声色…。その甘いひと時を思い出して、遼太郎は確信する。
――先生は、俺の「彼女」なんだ…。
西日の射し込む自分の部屋に戻って、遼太郎は自分にとって生まれて初めての存在を噛みしめた。
山の向こうに沈んでいく夕日を、窓辺にもたれて眺めながら、遼太郎はポケットからスマホを取り出して“彼女”へとメールを打った。
次の休みに、自分が運転する車で、一緒に遊園地へ行こうと――。