Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
「狩野くん?どうしたの?」
思い切って、彩恵は遼太郎に声をかける。我に返った遼太郎は、彩恵に向かって笑顔を作り、首を横に振った。
「いや、ちょっと。知り合いに呼ばれたような気がして。」
「知り合いって?誰?」
彩恵が遼太郎の側までやって来て、シャツの腕のところを引っぱった。
「うん。高校の時の知り合いだから、茂森さんは知らない人だよ。」
「その人って、男の人?女の人?」
突っ込んだ質問をされて、詮索され始めたので、遼太郎は眉を寄せて困り顔をした。
もちろん本当のことどころか、女の人だというだけで、彩恵を刺激してしまうことは分かっている。
彩恵は、とても遼太郎のことを好きでいてくれているらしく、何気ない遼太郎の視線の先にもヤキモチを焼いた。
「おい、遼太郎!上着。」
佐山から突然声をかけられて、放り投げられて宙を舞っていたモッズコートを受け取る。
他の皆も店から出てきて、彩恵と二人きりではなくなったことに、遼太郎はホッと胸をなで下ろした。
「今日はもうお開きだぜ。猛雄はバイトがあるし、俺も練習があるし。」
この日は、午後からの講義が急きょ休講になった。それで、クラスの仲のいい者同士ボーリングに行こうという話になり、そのボーリングの後、コーヒーショップで一息ついていたところだった。