Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
「狩野くーん!次、体育でしょ?そろそろ行こうよ。」
その時、樫原から声がかけられて、遼太郎は見えない鎖から解き放たれた。ホッと息を抜いて、席を立つ。
「それじゃ、茂森さんも、次は体育だから行かなきゃ。」
「うん。」
彩恵も頷いて立ち上がった。
次の体育は一般教養なので、同じクラスの遼太郎と彩恵は同じ体育だけれども、男女別々に違う種目を受講する。
遼太郎は、これからするサッカーのウォーミングアップとばかりに軽快に走って、樫原と佐山に合流した。
――…茂森さんは、俺のことが信じられないんだ……。
サッカーのゲームをしながら、遼太郎はぼんやりとそう思った。
もっと厳密にいうと、遼太郎からの愛情を感じられないから、それを確かめたがっている。
いくら一緒にいる時間が積み重なっても、遼太郎はただの友達に毛が生えたくらいのポジションから動こうとしない。彩恵からの想いが積もれば積もるほど、満たされない感覚が強くなる。
…多分、『好きだよ』というたった一言を、言ってあげさえすれば、何かにつけて生じる彩恵の苛立ちも収まるのだろう。
だけど、その一言は、シンプルだけれども究極の言葉だ。
かつては何度もみのりに囁いていたその言葉だけは、どうしても言えなかった。自分の心を偽れるほどの無感覚さや勇気が、遼太郎には足りなかった。