Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
途中、近道を兼ねて小さな公園を横切る。その時、とうとう彩恵から話を持ち出されてしまった。
「あのね、クリスマスのことなんだけど。私、いろいろ考えてみたんだ。」
自転車を押しながら歩いていた、遼太郎の足が思わず止まる。
「狩野くんのことだから、どうせ何も考えてないでしょ?」
歩を進めた彩恵は立ち止まって、遼太郎に振り返りながら、そう言って笑った。この数か月間で、彩恵の方も遼太郎の思考や行動のパターンが解ってきているようだ。
その曇りのない彩恵の笑顔に怯んでしまって、遼太郎はなかなか口が開けない。
「素敵なレストランやロマンティックなデートスポットに行くことも考えたんだけど、きっとカップルでごった返してるだろうし…。それでね?狩野くん前に言ってくれてたでしょ?私のアパートに来てくれるって…。」
硬い石のような唾をごくりと呑み込んで、遼太郎が何と言って答えようか迷っている内に、彩恵がさらに話を続ける。
「私、お料理頑張るから、小さなケーキを買って二人で……」
「茂森さん。」
彩恵の言葉を遼太郎が遮った。これ以上は、あまりにもいたたまれなくて、もう聞いていられなかった。
返事の代わりの視線を受けながら、遼太郎はナイフのような言葉を絞り出した。