Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
「……本当にそう思ってるのなら…。」
彩恵は震えている唇をキュッと噛んで、続く言葉を少しためらった。
「私のことが好きなら……キスして。」
彩恵への愛情を量る決定的な要求をされて、遼太郎は立ちすくんだ。息が浅くなり、自転車のハンドルを握る手に力が入る。
遼太郎の行動を待つ彩恵の視線と、遼太郎のそれが複雑に絡み合った。
ここでキスをすれば、彩恵の興奮は収まるのかもしれない。……でも、彩恵はいずれ、その行為さえも疑うようになるだろう。
それに、遼太郎はすでに、キスの意味を知ってしまっていた。
キスはこんな気持ちでするべきではないことを。溢れ出てくる愛しさを伴わなければ、ただの虚しい行為だということを。
そして何よりも――、みのりに触れた感覚の残るこの唇で、他の女性に触れたくなかった。
「ごめん……。今は……できない。」
遼太郎のこの答えを聞いて、彩恵の顎が目に見える形で震えてきた。次々と流れ出してくる涙は、彩恵の頬を濡らした。
それをどうしてあげることもできずに、遼太郎はやるせない気持ちで見つめることしかできない。
彩恵は震える口を動かして、ようやく言葉をしぼり出す。
「……わかった。…もう、いい……!!」
そう言い残して、くるりと体の向きを変えると走り出した。