Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
楽しかったOB会はお開きになり、片付けも済むと、皆それぞれ帰途に着き始めた。
誰もいなくなった第2グラウンドを吹き渡る寒風に顔を洗われ、冷たい空気を胸いっぱいに吸い込む。
心がリセットされて初めて、遼太郎は、芳野高校の職員室を見上げられた。
職員室は、正月だというのに明かりが灯っている。センター試験が間近なので、正月返上で模試の類を行っているらしい。
――あの渡り廊下に行けば、きっと先生に会えるに違いない…。
そんな思いが心に過ると、両方の手のひらが熱くなって、遼太郎は意識せず、拳をきつく握りしめていた。
みのりに会いたいという衝動を、そうやって必死で抑え込む。満たされない思いを埋めるように、自分の中に残るみのりの息吹を探した――。
みのりと想いが通じ合って、付き合った状態でいたのは1か月足らずだったが、その時のことは彩恵と一緒にいた数か月間のことよりも、鮮明に思い出せる。
思えば、彩恵といた時のように常に神経を研ぎ澄ませて気を遣うようなこともなく、気まずい気持ちで謝ることも、ワガママで困らせられることもなかった。
それどころか、みのりは常に遼太郎の気持ちを先回りして察し、優しい言葉や励ましをくれた。
心地よい空気で包み込まれて、柔らかく笑ってくれるとき、愛しさが募って同じものをみのりへと返したいと思った。