Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
目を剥いて凝視する遼太郎と樫原の前を通って、そのカップルが大学構内へと入っていくとき、
「…やっぱり、彩恵ちゃん!!」
樫原が思わず声を上げた。
名前を呼ばれた彩恵は反射的に顔を向け、そこに遼太郎の存在を認めて、ハッとしたような表情を浮かべた。
けれども、歩みを止めることはなく前を向いて、〝新しい彼氏〟との手を繋ぎ直すと、朝の慌ただしい学生の波の中に消えていった。
唖然としてそれを見送った樫原が、ようやく口を開いた。
「…どういうこと?!」
動揺している樫原に比べ、遼太郎の態度は冷静なものだった。
「どういうことって、俺は愛想を尽かされてフラれたってことだよ。」
「ええっ!?」
樫原がいっそう大きく目を見開いて、遼太郎を見上げた。
「これで良かったんだよ…。」
そう言いながら、樫原に薄く笑い返して、遼太郎は自転車を押して歩きはじめる。
これは、自分が彩恵にした仕打ちの報いのようなものだ。別れを切り出して泣かれるよりも、ずっといい――。
あの新しい彼氏ならば、彩恵のほしいものを与えてあげられるだろう。何の迷いもなく、彩恵を抱きしめたいと思えるだろう。
そして、お互いからの愛情を受け合って、その想いは本物へと育っていける。