Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



 けれども、遼太郎の弟と関わりを持つことには、怖さもある。
 俊次を見るたびに、その中にある遼太郎の面影を探すだろう。そして、その度に切ない心の疼きに耐えなければならないだろう。
 せっかく平穏になりつつある自分の心の状態が、壊れてしまうのではないかと、みのりは少し怖かった。


 それでも、かつて遼太郎の成長を見守っていたように、俊次の成長の助けになりたい。
 それが、もう会うこともないけれども、遼太郎の喜びにもつながる――。

 そう思うと、俊次にはやはりラグビー部に入ってもらいたいと、みのりも心から思った。



 新年度になると新しい職員も入ってきて、3月のしっくりとなじんだ職員室から一変する。雰囲気も様変わりし、落ち着かなげにざわめいている。

 特に強烈なキャラクターがいたら、なおさらだ。
 こういう人間は、周りに醸し出す雰囲気のようなものがあって、自分を新しい環境に溶け込ませようとはしない。


「仲松先生!」


と、声をかけてきたこの伊納(いのう)という数学教師もそういう人間だった。


 みのりより2つ年上のこの伊納は、いつもパリッとした三つ揃えのスーツを着て、髪もきちんとセットをし、細部まで身だしなみには気を遣っている。


< 312 / 775 >

この作品をシェア

pagetop