Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
親しい人ならば、直接携帯電話へ連絡をしてくるはずだ。こんなふうに呼びだされる人物に全く心当たりがなく、戸惑いと不安が立ち込めてくる。
その時、みのりの心をかすめたのは、――遼太郎だ。
遼太郎に会うわけにはいかないと思うけれども、人目に付く事務室前の正面玄関で待ちぼうけさせておくわけにもいかない。
『遼太郎のはずがない…』と、自分の思考を振り払いながら、愛との会話はそこそこにして、みのりは正面玄関へと向かった。
階段を下りていると厄介なことに、階段を上ってきている伊納とバッタリ出会ってしまった。みのりは思わず、そのまま回れ右して階段を駆け上がりたくなる。
「あれっ…?どこに行くの?」
みのりを一目見た瞬間、伊納の不自然に白すぎる歯がキラリと光った。そして、案の定、みのりにまとわりついて一緒に階段を下り始めた。
「ちょっと、事務室に…。」
と、短く答えながら、みのりは伊納をまこうと足早になる。
「事務室に何の用?俺も今、提出し忘れていた書類を持っていったんだ。」
しつこく絡んでくる伊納に、みのりは辟易して業を煮やした。伊納除けの古庄も、こんな時には通りかかってくれない。心中穏やかでないときに、これ以上余計な心労をかけないでほしかった。