Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
イライラがピークに達して、伊納に一言苦言を呈そうかと思った時、みのりの目に玄関にたたずむ一人の男性が入ってきて、もう意識から伊納はいなくなる。
スーツ姿を見て、『遼太郎ではない』とホッとするどころか、『石原ではないか』と、ビクッと一瞬鳩尾に冷たいものが落ちた。
が、そうではなかった――。
「みのりさん。お久しぶりです。」
清潔で爽やかな容姿に似つかわしい澄んだ笑顔で声をかけられて、みのりだけでなく伊納も固まった。
「……蓮見さん……。」
みのりがそれに答えると、自分の居場所はないと覚った伊納は、しっぽを巻いて退散した。
伊納がいなくなっても、ほぼ1年ぶりに会う蓮見に、みのりは何と言って言葉をかけていいのか分からない。
チラチラと覗かれる事務室からのガラス越しの視線も気になる…。
「…お、お久しぶりです…。」
とりあえずみのりは、ぎこちなく頭を下げる。すると蓮見は、その爽やかな笑顔に、苦さを加えた。
「…『何でお前がここにいるんだ?!』…って、顔をしてますね。」
蓮見に心の中を言い当てられて、みのりはそれを否定することもできず、返す言葉が見つからない。