Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
「……だから、俺に……。」
遼太郎は自分の思考を映すように、思わずつぶやいた。
先ほどの道子は、辛い出来事で傷ついた心を、遼太郎に癒してもらいたかったのだ。
遼太郎は両手を両ひざの上に置き、うな垂れて大きな溜息を吐いた。
「…でも、俺は…。亀山先輩を慰めてあげたいとは思います。先輩の見た目がどうとかの問題でもないんです。けど、……やっぱり……。」
遼太郎の内側に、みのりの優しく微笑む面影が浮かぶ。
みのりを抱き寄せて、この腕の中に包み込んだ時の可憐さ。髪を掻き上げ頬を撫で、唇を重ねた感覚。口づけの合間の吐息と、漏れてくる甘い声。滑らかな肌に唇を滑らせた時の記憶――。
みのりと想いを交わした時の感覚が、今でもはっきりと甦ってきて、遼太郎の体の中を駆け抜ける。
心が切なく叫び始めて、遼太郎は目を閉じ、唇を噛み、拳を握りしめた。
みのりの幻影が自分の中を通り過ぎて行ってくれるまで、ひたすらじっと耐えて、それから言葉を絞り出すように口を開いた。
「俺は、『好きな人』じゃないと抱けません。」
道子は、そう断言した遼太郎の顔を見て、覚った。
それは、これから巡り会うであろう抽象的な〝好きな人〟ではなく、遼太郎の心に深く刻み込まれている〝好きな人〟が、もう既にいることを――。