Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



――このままずっと…、狩野くんの側にいたい…。


 遼太郎のような男に、心から想ってもらえたら…、道子はそう思わずにはいられなくなった。


 だけど、遼太郎には、何があっても忘れることのできない、心から愛している人がいる。
 その揺らぐことのない真理に裏打ちされているからこそ、あの時の遼太郎の言葉には強さがあった。遼太郎の道子に対する優しさも、その心の中にいる人を、誠実に強く深く想っていればこそ、生まれてくるものなのだろう。

 だからこそ、遼太郎をずっと自分に縛り付けるわけにはいかない…。


 一緒にいれば、遼太郎は優しくしてくれる。でもそれは、遼太郎が思いやりのある人間だからに他ならない。自分への優しさは、友人に向けられるものと全く同じものだ。

 遼太郎は、ずっと一緒にいてくれない。遼太郎と一緒にいる限り、いつか切り出される「別れ」に、道子はおびえ続けなければならなかった。



「よっ!遼太郎。最近、例の『彼女』とは上手くやってるのか?」


 ゼミ室へ上がる階段で、遼太郎が先を行く佐山と樫原に追いついた時、開口一番、佐山の方が遼太郎に訊いた。

 その響きに、そこはかとない嫌味が漂うものだから、樫原は顔をしかめて佐山を顧みたが、樫原本人も遼太郎と道子のことは気になっているようだ。


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