Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
樫原のこの言葉は暗に、『まだ別れないの?』という質問と同じだった。
遼太郎はそれに対して何も答えず、肩をすくめて樫原に視線を合わせて、その眼差しを和ませただけだった。
すると、道子に対して辛辣な佐山の方が、樫原に答える。
「『案外続く』ったって、まだ1カ月くらいのもんだろう?そんなに早く振っちまったら、いくらおブスの『道子チャン』でも可哀想だろう?」
と言いながら、勢いよくゼミ室のドアを開いてみたら、そこには道子の姿があった。
さすがの佐山もこれには肝を潰したらしく、思わず手で口を押さえて、目を白黒させる。
「…亀山先輩、こ、こんにちは」
佐山の暴言を何とかごまかそうと、樫原が道子に明るい声で挨拶する。
『どうせ私は、ブスよ。そんな分かりきってること、いちいち言わなくていいじゃない』
これまでの道子ならば、間違いなくそんな返答をしていたはずだ。しかし――、
「こんにちは」
絶対に佐山の言葉が耳に入っていたに違いないのに、道子はにこやかに挨拶を返した。
その思ってもみない反応に、佐山も樫原も目が点になる。
「あのね、狩野くん。この前言ってたことだけど。」
そして、二人のことはまるで気にも留めず、道子は遼太郎と話し始める。それを見て、佐山と樫原は顔を見合わせた。