Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
しかし、その微笑みは、道子の心を安堵させるどころか、キュンと切なく疼かせる。もう、この微笑みを独り占めできなくなることが、とても寂しくなって…、決心が鈍りそうになる。
込み上げてくる涙を堪えながら、道子は勇気を出して切り出した。
「…最後に、一つお願いがあるの。」
「……?…何ですか?」
優しい微笑みを湛えたまま、遼太郎は背の低い道子を覗き込んだ。
「狩野くんは、どんな形であれ私にとって初めての『彼氏』だったの。…だから、抱きしめてとは言わないから……、ハグしてくれる?」
「……え?!」
道子からのお願いに、遼太郎は少し戸惑った。
もちろん、みのり以外の女性にそんなことをするのも抵抗がある。
遼太郎は、横で状況を見守っている佐山と樫原を一瞥した。
「……ここで、ですか…?」
それに、佐山と樫原の目の前でそんなことをするなんて、さすがにちょっと躊躇してしまう。
「だって、ただのハグよ?」
変に意識している遼太郎に対して、道子は敢えておどけるように明るく言った。
遼太郎は恥ずかしそうな表情を浮かべて、考える。
きちんと〝一人の女性〟として尊重された経験のない道子が、これから生きていく中で、自分がそうしてあげることは、とても大事なことのように思われた。