Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
遼太郎はぎこちなく頷いて、道子へと腕を伸ばす。それから、小さな子どもを憐れみ慰めるように、そっと道子の肩を抱きしめた。
その遼太郎に包み込まれた、ほんの短い一瞬。道子は、本当の幸せを感じた。この一瞬を思い出せば、これからはこれを支えに生きていけると思った。
「……ありがとう。」
遼太郎の腕から抜け出た道子は、本当に生まれ変わったように、可憐ににっこりと微笑んだ。
そして、ゼミ室のまん中に置かれているテーブルの上にあったバッグを担ぐと、佐山と樫原の横をすり抜けてドアノブに手をかける。
「……待てよ!」
出て行こうとする道子にそう叫んだのは、遼太郎ではなく…、佐山だった。
道子だけでなく、遼太郎も樫原も驚いて目を見開き、佐山に視線が集まる。
「あんた…、今みたいな顔で、いつも笑ってなよ。そうすれば、十分、可愛いんだから。」
佐山を見つめる道子の目に、ジワリと涙が浮かんだ。
けれども、道子はそれきり…、遼太郎へは振り返ることなく、ゼミ室のドアを開けて出て行った。
この時、道子が遼太郎に話そうとしていたこと。それは、ゼミを変わるという決心だった。
遼太郎と別れた後も気まずい思いをしなくていいように…、というわけではなく、自分が考えていることや将来の夢などを遼太郎と話をしている中で、道子自身が『変わるべきだ』という結論を導き出したから。