Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
誰かに尋ねるなどしなくても、今もここから走り出せば、ものの数分で、遼太郎はみのりの姿を確かめることが出来るだろう。
――…まだ、こんな俺じゃ、先生に会いに行けない…。
しかし、遼太郎は自分で自分の足に枷(かせ)を付けて、その足はそこから一歩も踏み出せない。
みのりのいる場所……そこは、遼太郎にとって近くて遠い場所だった。
それでも、1年前とは変化したこともある。以前は、みのりを想うたびに辛い痛みに突き上げられて、何も手につかなくなるほど自分が制御できなくなっていたのに、今は少し冷静に、もっと穏やかに思い出せるようになった。
心の感度が鈍化してしまったのか、痛みに慣れてしまったのか…。
どちらかと言えば、後者だろう。
みのりを想う切ない痛みは、自分が自分であるために、自分を構成する大事な一部分でもあった。
――先生を好きでなくなったら、俺が俺ではなくなってしまう…。
そんなことを思いながら、遼太郎は職員室の窓を見上げたが、そこにみのりの姿が映ろうものなら、それこそ今の思考の何もかも…、自分が自分であることさえも忘れてしまうだろう。
「……遼ちゃん、帰らないのかよ?」
遠く校舎を見つめたまま、いつまでも動かない遼太郎に、二俣が声をかけた。