Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



 みのりが心配そうに立ち止まって様子を窺っているので、遼太郎も男の子へと目を向けた。
 どうやら、そこにある「ハンマーゴング」と言われるゲームがうまくいかず、景品がもらえなかったのが気に入らないらしい。

 ハンマーを力一杯振り下ろし、その反動で鉄球を跳ね上げゴングを鳴らさねばならないのだから、大人の男性でも成功するのは至難の業だ。


「ちょっと、待っててください。」


 遼太郎はお尻のポケットから財布を出しながら、おもむろにハンマーゴングの方へと向かい、係員へと料金を渡した。遼太郎の意図を理解したみのりも、泣いている男の子の元へと歩み寄って声をかける。


「今から、あのお兄ちゃんがゴングを鳴らしてくれるから、泣かないで見ててね。」


 男の子は泣き顔のまましゃくりあげながら、遼太郎を見上げた。母親の方は、「助かった…」とばかりの顔を見せて、みのりへと会釈をする。


 皆が見守る中で、遼太郎はハンマーを手に取り、それを振り上げる。
 1回目は、叩く場所が真ん中から逸れてしまい、鉄球は「8」の目盛りまでしか上がらなかった。途端に、一旦は泣き止んでいた男の子が再び泣き声を上げ、渋面になる。遼太郎はそれを振り返って、苦く笑ってみのりへと目配せをした。


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