Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



「そうだったんですか…!」


 蓮見は相づちを打ちながら、みのりへと優しい視線を向ける。みのりはそれを受けて、恥ずかしそうに肩をすくめた。


 部屋に通されて、料理が来るのを待つ間、二人きりにされた気まずさを紛らわすように、みのりの方から先ほどの話題の補足をする。


「…その、新聞にも載ったお代官様のお料理。試作の物を食べさせて頂いたんです。だから、ここのお料理は美味しいと保証できます。」


「こんな大きなホテルの女将さんが知り合いだなんて、びっくりしましたが、なるほど、そういうことでしたか。でも、本当に助かりました。」


 座卓に向かい合って座る蓮見も、みのりが少し打ち解けてくれた様子を感じて、表情を緩める。


「いえ、〝連れ〟が県民新聞の記者さんだって言ったら、二つ返事で承諾してくれました。やっぱりマスコミには力がありますね。」


 みのりがそう打ち明けると、蓮見は眼鏡の向こうの目を細めて、優しげで輝くような微笑みを見せた。


 素直な感性を持つ女子ならば、こんな笑顔を見せられてしまうと、一目で蓮見のことが好きになってしまうだろう。

 けれども、みのりの心は浮き立つどころか、言いようのない不安に襲われてしまう。

 決して蓮見のことを恋い慕う気持ちはないけれども、この笑顔の力に、流されてしまいそうで怖い…。


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