Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
しばらくの沈黙の後、みのりはやっとのことで言葉を絞り出す。
「……蓮見さんのお気持ちは、よく解りました…。でも、今は……、一人にさせてください。今日はここで、お別れさせてください……。」
蓮見も初めから、自分が望んでいた答えを、今日のみのりからもらえるとは思っていなかった。
懇願ともとれるみのりの申し出に頷いて、みのりの両手を解放する。おずおずと両手を引っ込め、お辞儀をしようとするみのりに、蓮見は望みをつなぐ言葉をかけた。
「……また、会いに来てもいいですか?」
その問いに、みのりは何も答えられず、首も振らなかった。考えるように少し動きを止めただけで、そのまま深々と頭を下げると、振り切るように背中を向けて走り出した。
その刹那に、みのりの結い上げた髪を飾っていた簪(かんざし)が、抜け落ちて、音を立てて道路に跳ねた。
「……あっ!…みのりさん!!」
それを拾い上げた蓮見が、みのりを呼び止める。
しかし、みのりは振り返らなかった。それはまるで〝決意〟でもあるかのように、脇目も振らずに走って、下駄の音が遠ざかり……、角を曲がって見えなくなった。
蓮見は手の中で輝きを放つ、かんざしにあしらわれたトンボ玉を見つめた。
彩られているのは、水の中に浮かぶかっ〝蓮〟の花――。
そのかんざしと共に、切ない想いが発する心の痛みだけが、たたずむ蓮見に残された。