Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜


 二俣の指摘がみのりの心を深くえぐって、〝たてまえ〟という箱の中に整理して直し込まれていた気持ちを、ぐちゃぐちゃにかき混ぜ始める。

 遼太郎に会いたくて会いたくてたまらないのが、みのりの本当の気持ち。

 記憶の中の遼太郎に抱きしめてもらってキスしてもらうのではなく、毎日新しい遼太郎の息吹を感じ取り、その腕の力強さを感じていたかった。


 けれども、みのりは唇を噛むと、いっそう大粒の涙を零し始める。


「……ダメ……。出来ない……。」

「…何で出来ないんだよ?」

「……怖いのよ……。狩野くんが大学に行って、もうずいぶん時間が経ってしまったでしょう?狩野くんは高校生のままの狩野くんじゃないわ。」

「そうだよ。遼ちゃんだって、もう子どもじゃない。21歳になってる。でも、どうしてそれが怖いんだよ?」


 二俣に責め立てられるように問い質されて、みのりはもう逃げ場がなくなってしまった。涙で濡れる顔を両手で覆って、自分の心にあるものを吐露するしかなかった。


「狩野くんはこの狭い街から飛び出して、広い世界に出て行ったのよ?そこで、ちゃんと前を向いて、自分の意志で歩き出して…。きっと物を見る目や感じ方までも変わってしまってる。…それに引き替え私は、この狭い街のこの学校の中だけで毎日変わらない生活を繰り返して…。ただ年を取っただけ。都会の洗練された若い女の子に比べたら、私なんて…、…ただのオバサンにしか思えないでしょう?」


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