Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



「『遼ちゃんのため』の一番は、みのりちゃんが寄り添って側にいてやることだろ?みのりちゃんだって本当は、そうしたいって思ってるはずだ!」


 二俣の断言を聞いて、みのりは弾かれたように顔を上げ、二俣を見つめ返す。


「…逃げるなよ、みのりちゃん。ちゃんと自分と向き合って、『怖い』と思うことにも立ち向かえよ。」


 だけど、今のみのりには、二俣の言葉を受け入れて行動を起こす勇気はなかった。『逃るな』と言われているのに、足が勝手に動き出して二俣に背を向けていた。

 二俣はそんなみのりを追いかけては行かなかったが、その背中に向かって声を張り上げた。


「それが、ずっと俺らを応援し続けてくれてたみのりちゃんかよ!?」


 みのりは振り返ることもできず、二俣を振り切るように駆け出した。


 このままでは、職員室へは戻れない。涙が溢れ、体の震えが止まらなかった。植え込みと校舎の間の陰に身を隠して、気持ちを落ち着けようと懸命に深呼吸を繰り返す。


 遠くから聞こえるヒグラシの物悲しい鳴き声に加え、近くの木で鳴くツクツクホーシの声が共鳴している。その閑かな空間で、みのりは涙を拭い、ようやく正気を取り戻した。


 傾いてもまだ力強い夏の夕陽が照りつけて、息が詰まりそうな暑さがまとわりつく。夕陽が作る長い影を見つめながら、みのりは今の自分を顧みた。


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