Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
20 不本意なデート
遼太郎が、同じゼミの2年生長谷川陽菜から初めて声をかけられたのは、まだ梅雨入り前の6月のことだった。
「このチケット。知り合いからもらったんですけど、1枚しかないし、狩野さんにあげます。」
週に1回行われるゼミ生のミーティングを終えた時、ゼミ室の一角で、不意に関係のない話を持ち出してきた。
遼太郎は差し出されたチケットに目を落として、そこから目を動かせなくなる。
それはラグビーの試合のチケットだった。しかも、日本代表と何とニュージーランド代表オールブラックスの試合。さらに、S席の指定席だった。
サッカーほどメジャーでないラグビーの試合とはいえ、これはプラチナチケットだった。遼太郎も入手しようと試みたが、すぐに売り切れてしまい、結局手に入らずじまいだったものだ。
何としても観戦したいと思っていた試合のチケットが、目の前にある!
遼太郎はほとんど無意識にそのチケットを受け取ってしまっていたが、突然我に帰る。
「…いや、でもこれ。指定席だし、金は払うよ?」
嬉しい反面、あまり口も利いたことのない後輩からタダでもらうのは、あまりにも気が引ける。遼太郎は財布の中身を思い出しながらそう言葉をかけた。