Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



「狩野くん。」


 だが、そのやり取りを傍目で見ていた樫原が呼んでくれたので、遼太郎はそのモヤモヤした感覚から解放される。手にあるチケットをきちんと財布の中に仕舞い、樫原へと振り返った。


「今日この後何も用事がなかったら、今日の打ち合わせのこと、旅行社に行って相談してみよっか?」

「そうだな。今日はバイトもないし。うん、行こう。」


 樫原の提案に、遼太郎も快く頷いた。
 〝今日の打ち合わせ〟とは、夏休みに行うゼミ合宿についてのこと。この日、候補地が沖縄に決まり、遼太郎と樫原は旅行社との話し合いをする担当になっていた。


 大学生活も後半に入り、ゼミでの研究も本腰を入れて取り組まねばならない時期となりつつあった。来年の今頃は、もう就職先が決まっているだろうか…。そして、その後は卒業論文が待ち構えている。


 卒論のテーマは、ゼミの担当教官が適切なものを提案してくれたりもするが、遼太郎は何とか自分の力でそれを見つけたいと思っていた。

 そのためには講義も単位を落とさない程度に、何でもテキトー…というわけにはいかず、何か自分の未来につながるものを見いだすことに必死だった。

 というより、そうしていないと不安に駆られる。みのりに向かう正しい道を、着実に歩んで行けていないような気がして…。


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