Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



 置いてけぼりを食らう佐山が不機嫌そうな声を上げると、樫原はしかめっ面で佐山を見返す。


「それ、去年取ってるはずの講義だよね?単位落としちゃう晋ちゃんが悪いんだよ。それに僕、狩野くんとデートしたいんだから、邪魔しないでよ。」


 樫原の佐山とのやり取りを聞いて、遼太郎の表情も苦くなる。


「……『デート』って……。」


 樫原のこういう発言は、どこまでが本気なのか分からなくて戸惑ってしまう。


「…なっ?!何だと!!猛雄、お前。許さん!!」


と、佐山が樫原を捕まえようとしたところを、樫原はサッとしゃがんでそれを躱(かわ)した。


「へへーん!そんな簡単に捕まらないよー!!」

「猛雄!このやろ!!」


 二人はゼミ室の大きなテーブルを挟んで、ぐるぐると周りで追いかけっこを始める。その辺にいた女の子たちが少し迷惑そうな表情を浮かべたが、佐山にぶつかりそうになった一人は却って嬉しそうに体を硬くした。


「佐山、講義が終わるまで待ってるから。旅行社との打ち合わせも、一緒に来てくれた方が助かるし。」


 遼太郎の判断で、樫原の「デート」という目論見は却下され、佐山を待つことになった。
 そう言われて佐山は樫原を追いかける理由がなくなり、樫原も消沈しておとなしくなる。そうやってその場を収めた遼太郎に、後輩たちは頼もしそうに尊敬の眼差しを注いだ。


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