Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
「確かに大変だとは思うけど、今の段階じゃ、諦めたくないんだ。まだ就職も教職資格も、どっちも手に入れられるチャンスはあるから。」
かつて受験勉強と花園予選で大変だった頃、みのりにそうやって叱咤されたことを、遼太郎は思い出していた。
みのりを思い出す遼太郎の得も言われぬ優しい笑顔に、樫原は思わず見とれて、それから自分も笑顔になる。
そうやって和やかな会話を交わしながら図書館の入口に差し掛かった時、向かいから歩いてきた3人ほどの男子の集団を見て、樫原の表情が固まった。
その集団から目を逸らして、そそくさと図書館へ入って行こうとする樫原の背中に向かって、声がかけられる。
「おやおや、樫原猛雄ちゃんじゃないか!間違えてないか?そこは新宿2丁目じゃないぞ?」
男の一人がそう言うと、あとの2人が大声をあげてゲラゲラと笑った。その嘲った笑い方に、遼太郎も顔をしかめる。
「…なんだ、あいつら?知り合いか?」
遼太郎の質問に、樫原は遼太郎以上の不快さを隠さずに答える。
「附属中学の時からの同級生。僕を見かけると、いつもあんなふうにからかってくるんだ…。」
「あんなふうって…?なんで『新宿2丁目』なんだ?」
その疑問に、樫原の顔がいたいけな女の子のように歪んで、今にも泣き出しそうになる。