Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜




「送ってもらって、ありがとうございました。」


 車の横に立って律儀に礼をする姿は、まさに生徒が教師に対するものだ。そう言われてしまうと、みのりも教師としての笑顔を作って帰らなければならなくなる。


 車を発進させて、自分の家へと向かう運転中、みのりの心には落胆が充満した。菜の花畑にいた時のように、もう一度遼太郎に触れてほしかった。優しく触れて、キスをしてほしかった。
 それだけじゃない。本当はあの菜の花畑でも、世界に二人だけしかいないと感じられるほど、もっと抱きしめてほしかった。


 でも、別れ際の淡い期待を挫かれて、みのりは自分の中の分を弁《わきま》えない欲求に気がついた。それを再認識するたびに、みのりは言いようのない羞恥心にさいなまれる。

 相手は十二歳も年下の少年だ。硬派な遼太郎は、これまでに女性に触れたことなんて、ほとんど経験してないだろう。そんな遼太郎を相手に、なんという願望を抱いているのだろう…。

 そう自分を客観視すると、自己嫌悪にも似た感覚に襲われて窒息しそうになる。
 けれども、遼太郎を愛しく想う感情は、心の底から止めどなく湧き上がって、みのりの自制心を脆いものにした。思いの中に遼太郎を描くたびに、心は切ない叫びをあげる。一刻も早く、再び遼太郎に会いたいと……。





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